2025.02.24 部下の話を“ただ聞くだけ”で終わらせないために――受容とリーダーシップのバランス
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1. “受容”と“リーダーシップ”はセットで考える
よく言われる「部下を受容する」姿勢は、カウンセラーがクライアントに向き合う際に大切にしている概念でもあります。
相手の話を否定せずにまずは受け止め、安心して話せるような空間をつくる。
これによって相手は自分の考えや気持ちを整理しやすくなります。
しかし、仕事の現場では“受容”だけでは不十分です。
なぜなら、リーダーには組織の目標に向かってチームを導くという役割が求められるからです。
どの方向へチームを進めたいのか
部下の成長やキャリアをどのようにサポートしたいのか
こうしたビジョンや考えをしっかり持った上で、部下の話を受け止めることが重要です。
いわゆる「はいはい」と聞き流すだけでは、部下にとっては「あの人と話しても何も変わらない」という印象を与えかねません。
2. PM理論が示すバランスの重要性
リーダーシップ論にはさまざまな理論がありますが、その中でも「PM理論」はバランスの取り方をわかりやすく示してくれます。
P(Performance)機能:
目標達成や生産性を高めるためにぐいぐい引っ張っていく力
M(Maintenance)機能:
メンバー同士の関係性やコミュニケーションを円滑にし、雰囲気を整える力
このうちP(Performance)M(メンテナンス)機能に近いのが「受容」。
ただし、“受容=何でもOK”というわけではありません。
P(Performance)本人の考えや感情を否定せずに大切にしつつも、チームとしての方向性やゴールは外さない。
この“PとMのバランス”が崩れると、どちらかに偏りすぎてしまい、組織も人も成長しにくくなるのです。
3. 「何を言えるかが知性、何を言わないかが品性、どう伝えるかが人間性」
インターネットやSNSでしばしば見かけるこの言葉は、実は受容とリーダーシップのバランスを考える上でとても示唆的です。
「何を言えるかが知性」
相手の話を的確に理解し、必要なアドバイスや情報を提供できること。
ビジョンや方向性を示す力につながります。
「何を言わないかが品性」
相手が話している最中に口を挟んだり、相手の考えを否定する言葉を投げかけたりしない。
部下を受け止め、尊重する姿勢がここに表れます。
「どう伝えるかが人間性」
最終的に上司やリーダーとして、伝えるべきことはしっかり伝える。
しかし、“押し付け”ではなく、相手の立場や気持ちに配慮したコミュニケーションを心がける。
こ
の三つの視点が揃ってこそ、部下は「安心して話せるのに、きちんと導いてもらえる」と感じられます。
そこには上司・リーダーとしての理想の姿があるのではないでしょうか。
4. “ただ聞くだけ”から“意図を持って聞く”へ
心理的安全性や受容を意識すると、「部下の話をよく聞こう」と自分に言い聞かせる方は多いと思います。でも、ただ耳を傾けるだけでは部下は“聞き流されている”と捉えてしまう場合があります。
4-1. 部下が話す目的や背景を想像してみる
相手は何を知ってほしいと思っているのか
どんな悩みや困りごとを抱えているのか
部下が話す内容の背景にある意図や感情にフォーカスすることで、真に“受容”できるようになります。
4-2. 方向性を示すタイミングを見極める
いつ、どの段階でアドバイスをしたり方向づけをしたりするか
どの程度、部下の自主性を尊重するか
部下の話を十分に聴いた後で、「こんな考え方もあるよ」「このプロジェクトのゴールはここだから、こう動いてみない?」と提示するのが効果的です。焦って結論を急ぐと、せっかくの受容が“上司の押し付け”に変わってしまうかもしれません。
5. 上司としての振り返りポイント
“5-1. 自分はどの程度“P”に寄っているか、“M”に寄っているか
目標達成や成果ばかりに気を取られていないか
一方で、受容しすぎて軸を見失っていないか
PM理論の観点で自分の傾向を客観視してみると、改善のヒントが見つかります。
5-2. “何を言えるか”“何を言わないか”“どう伝えるか”を意識しているか
具体的にどんなアドバイスを部下にしているか
言わないでおく方がいいことは何か
相手に配慮した伝え方をしているか
この三つを自問自答するだけでも、コミュニケーションの質が変わってくるはずです。
6. まとめ:受容はゴールではなく手段、リーダーの使命は導くこと
➀ 心理的安全性…チームに安心感を醸成する基盤
➁ 受容…部下の話をしっかり聴いて背景や感情を理解する行為
➂ リーダーシップ…組織やチームを目標に導く責任
この三つは互いに矛盾するものではなく、バランスをとりながら同時に機能させる必要があります。
部下を受容するのはあくまで手段であり、最終的にはリーダーとして方向性を示し、導いていくことが大切です。
それこそがPM理論のPとMのバランスをうまく取りながら、チームを成長させる要諦でもあります。
そして、たった一言ながら私たちに多くを示唆してくれる言葉――
何を言えるかが知性、何を言わないかが品性、どう伝えるかが人間性。
これを心に留め、日々の会話・指導・リーダーシップに活かしていきたいものですね。
受容という名の“聴く力”と、リーダーとしての“伝える力”を両立させることで、よりよい組織やチームを築いていきましょう。
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このような「受容」と「リーダーシップ」のバランスは、組織の健全な成長に欠かせない要素です。
しかし、実際にどのように実践すればよいのか、どこまで受け入れ、どこで方向性を示すべきか――そのさじ加減は簡単ではありません。
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