2026.07.14 猛暑環境ではヒューマンエラーは起こりやすくなるのか 〜建設現場の安全を、環境・身体・心理から考える〜

建設業関係の安全大会で、mSEHLモデルについてお話しした際に、次のようなご質問をいただきました。
「建設業、特に屋外作業では、夏の暑さを避けることが難しい。
そういう環境では、やはりヒューマンエラーは起こりやすくなるのでしょうか。
どう対策すればよいのでしょうか」
結論から言えば、猛暑環境ではヒューマンエラーは起こりやすくなります。
暑さは単なる「不快感」ではなく、
身体と脳に負荷をかける環境ストレスです。
熱ストレスは疲労感や不快感を高め、認知機能の低下を通じて職場の事故に関係し得ると報告されています。
《暑さは注意力と判断力を奪う》
高温多湿の環境では、体温調節のために身体は多くのエネルギーを使います。
汗をかき、脱水傾向になり、心拍も上がります。
すると脳にとっては、注意を広く保つ力、細かい変化に気づく力、冷静に判断する力が落ちやすくなります。
つまり、暑さは「環境」の問題であると同時に、
「身体状態」「ストレス反応」「注意機能」に波及する問題です。
暑い現場では、本人の気合いや注意力だけに頼るのではなく、
暑さそのものをヒューマンエラー要因として扱う必要があります。
《ハイテク衣料と補水を“安全装備”として使う》
講演当日にもお話ししましたが、近年は、空調服やクールベストのような
身体を冷却する作業服、効率よく水分・電解質を補う飲料やタブレットなどが普及しています。
厚生労働省の熱中症対策でも、暑熱環境の評価には
◆WBGT値を用いること、
◆作業環境の低減
◆休憩
◆水分・塩分補給
◆服装
などを含めた対策が示されています。
WBGTは気温だけでなく、湿度・風速・輻射熱も考慮した暑熱ストレスの指標です。
空調服や冷却ベストは、「快適にするためのもの」ではなく、
注意力を守るための安全装備と考えるべきです。
また、OS-1のような経口補水液は、
軽度から中等度の脱水時の水・電解質補給に用いられるものとされています。
ただし、日常的な水分補給と脱水時の経口補水は目的が異なります。
現場では、通常の水分・塩分補給、休憩時の冷却、体調不良時の対応を分けて考えることが大切です。
《メンタルケアと声かけも対策になる》
暑さが厳しいと、人はイライラしやすくなり、会話も短くなり、確認行動が雑になりがちです。
ここで重要になるのが、
現場での声かけです。
「水分取った?」
「少し顔色が悪いけど大丈夫?」
「一度休憩を入れよう」
こうした声かけは、単なる気遣いではなく、
注意機能を守る安全行動です。
暑さの中では、自分の不調に気づきにくいこともあります。
厚生労働省のガイドラインでも、熱中症が疑われる場合は作業から離し、涼しい場所で身体を冷やし、水分・塩分摂取などを行わせることが示されています。
《休憩は「作業の中断」ではなく「安全の再起動」》
適度な休憩は、作業効率を落とすものではありません。
むしろ、脳と身体を再起動させる安全対策です。
暑熱環境では、休憩を我慢するほど集中力が落ち、結果的にミスや事故のリスクが高まります。
猛暑の建設現場では、環境を完全に変えることは難しいかもしれません。
だからこそ、装備、補水、休憩、声かけ、体調確認を組み合わせることが重要です。
ヒューマンエラー対策とは、人に「もっと頑張れ」と求めることではありません。
人の脳と身体が安全に働ける条件を、現場全体で整えること。
猛暑対策もまた、重要なヒューマンエラー対策なのです。

